「E判定からの逆転合格」「偏差値40から難関大学へ」——。
書店やインターネットにあふれる、そんなドラマチックな物語に心を動かされた経験は、多くの受験生にあるかもしれません。苦しい状況を乗り越えて栄光を掴む姿は、確かに魅力的です。
しかし、その輝かしいストーリーの裏側で、どれだけの若者が心身をすり減らしているか想像するべきです。結論から言えば、私は過度な「逆転合格」を安易に目指すことをお勧めしません。
もちろん、高い目標を掲げること自体は素晴らしいことです。時間をかけてじっくりと難関校を目指すことや、短期間であっても自分の実力より「少しだけ上」を目指して努力することは、大きな成長につながるでしょう。
「逆転合格」が強いる「詰め込み学習」という名の消耗戦
残り数ヶ月で今の実力では到底届かない志望校に合格する。そのためには、多くの人が睡眠時間を削り、娯楽を断ち、生活のすべてを勉強に捧げる「短期間の集中学習（詰め込み学習）」を選択せざるを得ません。
一見、最も効率的なようですが、これは心と身体に極度の負担をかける「消耗戦」に他なりません。
終わりの見えない焦りとストレス： 「間に合わないかもしれない」という強迫観念に常に追われ、心は休まる暇もありません。模試の結果に一喜一憂し、精神はジェットコースターのように揺さぶられます。
思考力を奪う睡眠不足： 睡眠は記憶を定着させ、脳を休ませるために不可欠です。それを削ることは、思考の明晰さや集中力を自ら手放す行為に等しく、かえって学習効率を悪化させます。
燃え尽き症候群（バーンアウト）： 短期間でエネルギーを燃やし尽くした結果、たとえ合格したとしても、大学入学後に何もやる気が起きない「燃え尽き症候群」に陥ってしまうケースは少なくありません。
一度壊れた心は、元には戻らない
最も深刻なのは、精神的なバランスが完全に崩れてしまうことです。
「受験が終われば元に戻る」と軽く考えてはいけません。一度、うつ病や不安障害など、心の健康を深刻に損なってしまうと完全に回復するには長い時間が必要です。そして、たとえ回復したように見えても、以前よりもストレスに対する耐性が弱くなり些細なことで再びバランスを崩しやすくなってしまうことがあります。
そこまでのリスクを冒してまで、無理に高い志望校を目指しますか？
あなたの人生は大学受験だけで終わるわけではありません。その先には、何十年という長い未来が続いています。その長い人生を、脆く、壊れやすくなった心で歩んでいく覚悟はありますか？
自分を大切にする、賢明な目標設定を
誤解しないでください。挑戦を諦めろと言っているのではありません。大切なのは、持続可能な努力です。
- 十分な時間があるなら、 高い目標を掲げ、計画的な「分散学習」で着実に力をつけていくことは素晴らしい挑戦です。一日一日の成長を楽しみながら、無理なく目標に近づくことができます。
- 時間が限られているなら、 まずは自分の実力を冷静に受け入れ、少しだけ上を目指した目標を設定しましょう。その目標を達成する過程で得られる自信は、次のステップへの大きな力となります。
受験は、誰かと比べるレースである前に自分自身と向き合うプロセスです。周りの声や聞こえの良いサクセスストーリーに惑わされず、自分の心と身体の声に耳を傾けてください。
あなたの健康以上に大切なものはありません。自分に合ったペースで、自分らしいゴールを目指すことこそが未来のあなたを本当に豊かにするはずです
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